機械故障を他の人に見つけられたら嫌だ
機械を巡るひとびと VOL. 005

ナオさん
日本プラッサー代理店 長谷川工作所

入社してからプラッサー社製機械を担当。機械トラブルを解決すること以上に、現場スタッフとのコミュニケーションを大切にしている。

2021年秋 | 旭川にてインタビュー

機械は壊れない。
“ものづくり大国日本ならでは”なのか、それとも“だからこそ”なのか、いつの間にか広がってきたこの幻想。

その一方、機械を壊れる機械を、頭と身体を使ってメンテナンスする人たちが現場にいます。現場の最前線で、故障修理の役割を長年に渡り担う、日本プラッサー代理店です。

日本最北端の代理店、長谷川工作所のナオさんに、旭川で話を伺いました。

 

――ナオさん、今日も現場対応から帰ってきたところだと伺いました。

ナオさん(以下、ナオ):はい、今朝はマルタイの油圧ソレノイドに不具合が発生していて、その対応に車で行ってきました。今日のインタビューに間に合って良かったです。
片道100kmほどの近場だったので助かりました。

 

――代理店である長谷川工作所の担当エリアは北海道全域です。日本の中でも、最も広大なエリアをカバーしています。機動力が必要とされる仕事ですね。

ナオ:そうですね。最も遠いところでは、北海道新幹線の仕事で青森まで行きます。津軽海峡フェリーでの移動も含めると、旭川から青森まで片道12時間の行程です。旭川を19時に出発、26時に函館からフェリーで青森へ。翌日9時から現場で作業。仕事を終えて、旭川へ戻ると、自宅に到着するのが深夜になることも。それだけ長距離を移動するのは極端なですが、移動は多い方だと思います。半年の走行距離は27,000kmを超えました。

 

写真:使い込んだ北海道地図で目的地を確認

長距離移動には慣れているので、あまり苦にはなりません。そもそも私たち代理店の仕事は“現場に行かないと始まらない仕事”です。旅芸人さながらにいろいろな基地を巡っています。

 

――しっかり休みながら移動してください。移動が多いからこそ、工夫していることはありますか?

ナオ:一度出発してしまうと忘れ物を取りに戻ることもなかなかできません。とはいえ、道具が無いので仕事が出来なかった、では話になりません。整備工場を出発する前に山ほど道具を車へ積載し、万全の準備をしていきます。詰め込み過ぎではないのかと同僚から言われることもありますが、道具がないことだけは避けたいです。

 

写真:車に詰み込まれた作業道具の一部

――確かに遠い現場であればあるほど、さまざまな事態への備えが大切になってきますね。
仕事道具をどのようにまとめるか。どんな順番で車両に積み込むかなど、仕事を効率良くするための工夫が隠されていそうです。

ナオ:そうですね。必要になる道具を全て積み込んだ専用車があるのが本当は理想です。ただ私以外にも複数人が携わっているので、今は必要に応じて荷物を積み降ろしして現場に向かっています。

 

――ナオさんは人一倍、負けず嫌いな面もあると聞いています。故障を直すだけでは物足りないとか?

ナオ:笑、たしかにそうですね。故障の原因を他の人に見つけられたら嫌です。自分が携わる仕事であったら、絶対に自分で見つけ出したいと思っています。原因を見つけ出して、その原理を調べて理解して、そして自分で直す。それがこの仕事の面白さだと思います。

 

写真:作業場が最も落ち着くと話すナオさん

――その繰り返しを通じてナオさんは知識と経験を身につけてきたのだと思います。
年々、機械は新しくなりますし、ときには問題解決が難しい状況もあると思います。解決できるか、不安に思うときもありますか?

ナオ:常に不安で、毎回チャレンジの連続です。今でも機械を修理できると自信をもって言えない。機械を診断して修理できたらラッキーくらいに考えています。
出来なくて元々だから、とりあえずやってみようと思うことにしています。

 

――これからの目標はありますか?

ナオ:私の目標は、会社にいながら遠隔で的確にアドバイスして故障を修理できるようにすることです。適格な質問を通じて、適格な情報を得る。そして分かりやすい指示を現場に出せるようになりたいです。そのために今は現場で経験値を獲得しているところです。

 

――さっきナオさんにメッセージが届き、携帯の着信音が聞こえてきました。ドラクエのレベルアップのサウンドが着信音。一つ一つの経験が積み重なって、レベルアップにつながる。そう捉えるなおさんだからなのかとようやく理解できました。

ナオ:この会社に入社以来、保線機械の担当として働いてきました。これまで続けてこられたのは良き師匠に巡りあえたおかげです。長い移動時間の間、技術的なことをいろいろ教えてもらえました。今は引退してしまったのですが私にとっては父親のような存在です。
この場を借りて、感謝したいと思います。

 

――編集後記――

今回は日本国内の代理店の中で最もハードな移動を繰り返し、仕事を行うナオさんに注目しました。保線機械が活躍できるのはナオさんのようなベテラン技術者の技術力があるからです。終わりのない技術力の向上を目指し、今日もレベルアップのサウンドが鳴っているはずです。