長野県にある地獄谷温泉。
ここでは野生のサルたちが、寒さ厳しい冬を温泉で乗り越えています。
そんな猿たちを求めて長野電鉄の列車に乗り湯田中へと向かう途中、
長野電鉄の保守機械メンテナンスを一手に担うヨウタさんに、話を伺いました。
修理一つとっても、プロの仕事は違います。
機械を巡るひとびと VOL. 002
ヨウタさん
長電テクニカルサービス
長野県出身。長野電鉄の保有する機械メンテナンスを一手に担う。
優しい物静かな印象ではあるが、機械愛にあふれ、実践的に身に着けた知識と経験でUNIMA4のコンディションを適正な状態に保持するキーマン。
大きなトラブルの方がやる気になるらしい。
2020年夏|湯田中にてインタビュー
――ヨウタさんは長野電鉄が2018年に導入した小型マルタイUNIMA4のメンテナンス担当をされていると聞きました。具体的にはどんなことをしているのでしょうか?
ヨウタさん(以下、ヨウタ)UNIMA4は長野電鉄の線路の突き固め作業に用いられています。夜間作業予定日の日中に機械に出向き、夜間作業を行える状態か判断しています。
故障やトラブルにつながるものはないか、隠れたリスクを一つずつ調べるのが私の仕事です。
――UNIMA4が入る前はどのように突き固め作業をしていたのですか?
ヨウタ:以前は自走タイプの小さな突き固め装置を使用していました。大切に整備していたおかげで40年以上使用してきました。
UNIMA4は長電待望のプラッサー&トイラー社製マルタイ1号機で、導入当初より大きく期待されています。機械が日本に到着するまでの間、私たちも楽しみで仕方なく、スポーツタオルも製造したほどです。
私にとっては可愛い子供のようなものです(笑)
――機械メンテナンスと聞くと専門的なスキルを必要とされると思いますが、技術的スキルをどのように身に着けてきたのですか?
ヨウタ:長電入社から6年、機械保守を管轄する部署で実践的な経験を積んできました。この6年間が人生で最も勉強した時間だったかもしれません。
良い先輩方のおかげで日々発見の連続でした。先輩方は引退されていきましたが、彼らの技術知識と経験をしっかりと受け継ぎたいと思っています。
また前田製作所さん(日本プラッサー代理店)の作業は毎回勉強になります。作業自体もそうですし、どんな道具を使っているんだろうと、いつもチェックしちゃいます。
――どんなところに仕事の魅力を感じていますか?
ヨウタ:保線機械はどれもメカメカしく、カッコいいですね。いかにもメカニックな姿が魅力的です。
この大きな機械を自由自在に操作したいと大抵の人は考えると思います。
でも機械操作自体には、私はあまり興味を持てません…。
変わっているのかもしれません(笑)。
――というとどんなところに楽しさを感じているんですか?
ヨウタ:擦り減り摩耗したパーツを取り外し、新たなパーツを取り付けた瞬間に幸せを感じます。自分でメンテナンスした機械が問題無く動いてくれる。
直した機械の姿を確認できたときが気持ちいい。
機械操作が好きな人は、操作することで機械との一体感を感じると聞きます。
私の場合は機械が再び動き出したとき、機械のことを理解できた満足感と機械との強い繋がりを感じます。
――細かい仕事も多くて大変なのではありませんか?
ヨウタ:パーツ一つ一つを交換するのや、機械内部では十分な作業スペースを確保できず大変な時もあります。ただ不思議と困難であればある程、やる気が出てきます。常に挑戦していきたいのかもしれません。困った性分です。
――今の仕事は天職ですね。不器用な私には想像もつきません(笑)。
話は変わりますが、先ほど機械の下に潜っていましたが、何をしていたんですか?
ヨウタ:見つかっちゃいましたか(笑)。機械の下に生えている雑草。小さいからって油断しているとあっという間にグングン伸びて、機械にダメージを与えることがあります。無視できない怖い存在です。
だから私は「Small Monster」と呼んでいます。
定期的に機械下に潜って、戦って(雑草取りをして)います。特に春から夏にかけては無視できない存在です。
――最新機械と機械メンテナンスについてどう思いますか?
ヨウタ:技術的進歩もあり最新機械はユーザーにとって直感的に操作しやすくなってきました。機械オペレータにとっても、そして鉄道会社もこれまで以上に保線作業がしやすくなってきています。
――使いやすくなっていると好評です。扱いやすくなっていますか?
ヨウタ:オペレータにとってはきっと使いやすくなっていると思います。機械状況を把握しやすくなりましたし、検測も手動ですることがなくなりました。
ただメンテナンスを担当する立場としては複雑です。電子部品が増えたことにより、故障した装置は修理することなく、一式交換する事が増えてきました。個別に修理をするよりも、一式交換の方が手間も少なくできます。そういう意味では故障修理をしやすくなったといえるかもしれせん。
ただ昔の機械式に比べると、最新機械では現場の私たちに修理できる範囲が限られてきているように感じます。個別にパーツを修理していく、これまで培ってきた専門知識は将来的に不要なものになるのかもしれません。機械メンテに携わる人たちにとって大きな転換期に差し掛かっているかもしれません。
――なるほど。確かにそうかもしれません。そういう時代だからこそ、機械メンテをしていく人の役割が重要になってきます。ヨウタさんのこだわりはどんなところですか。
ヨウタ:高品質な修理をしていきたいです。修理した部位を長く使えるよう、修理にこだわりたいと思います。
修理済みの装置を外から見るだけでは修理の質は見分けられません。きちんとした修理でも、場当たり的な修理だとしても、どちらも暫くは問題なく機能するでしょう。でも時間が経つとはっきり分かります。修理一つとっても、プロの仕事は違います。
機械メンテナンスのエキスパートを目指していきたいと思っています。
――ヨウタさんの高いプロ意識を感じました。ありがとうございます。ヨウタさんの家族はご両親の代から長電とかかわりがあると聞きました。やはりメンテナンス担当だったのですか?
ヨウタ:私の父は長電バスの運転手でした。幼い私にとって父はずっとヒーローで憧れの対象でした。母は長電のバスガイドとして働いたこともあります。生まれたときから長電と強い縁でつながっているんですね。
技術革新に合わせて変化していく機械メンテナンスのカタチ。目の前の機械だけでなく、自分自身の存在価値を自分自身に鋭く問いただし、技術力を高める姿が印象的なインタビューでした。
長電テクニカルサービス
設立1920年 主路線:長野駅~湯田中駅 路線延長:33.2km 最高速度:時速90km 最終電車:長野駅 23:25発 始発電車:長野駅 06:15発 | 機械名:UNIMA4 機械番号:6590 導入年:2017年 全長:9000mm 重量:24.05t 一晩の作業距離:300~400m |